【書評】アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本
今期の『SHIROBAKO』が非常に面白く、アニメ制作進行という職種に興味を持ったため、購入しました。
著者は『天元突破グレンラガン』に関わり、現在はトリガーにて 『キルラキル』、『リトルウィッチアカデミア』等を制作を手掛けた舛本和也さん。
制作進行の工程・関わる人そして"暗黙の実務"に焦点を当てて説明されていて、制作工程を疑似体験できる本でした。
本書を読んで分かった制作進行という仕事とその今後について、思うところを書いてみます。
※実際のアニメ制作の現場を経験している訳ではないので的外れなこと書いてたらすみません。
①制作進行という仕事について
現在、私はシステムインテグレーション(SI)業界でシステムエンジニア(SE)の仕事をしています。SEは、各工程に関わり、関係者と密にコミュニケーションをとりながらプロジェクトを推進していく立場にあり、制作進行と良く似ていると思います。SEとの比較を通して制作進行の特徴をまとめます。
・予算、スケジュール、納期を管理しプロジェクト全体を支える
・全ての工程に携わる
・関わる人が多くコミュニケーションに費やすコストが高い(しかも重要!)
・単にプロジェクトを進めるだけでなく、プロジェクトや成果物の背景や意図を汲みとる必要がある
・膨大な資料と反復作業
・リスク発見と解決を担う
逆に、差異は以下が挙げられます。
・アニメはシステムと違って成果物イメージの共有が難しい
・経験や実績とクリエイティブの高さが結び付くため、制作進行は立場が弱い(逆にSEは実際に手を動かす作業者よりも立場が強い)
a) 業務の効率化、コミュニケーションツールの導入はどうか?
反復作業が多いこと、情報の抜け漏れが発生しやすそうなことから、業務の効率化を検討する余地がありそうです。
アニメ業界の給与水準から想像するに、システム導入は予算面で難しいと思われます。また、プロジェクト毎に関わるクリエイターが異なり、在宅勤務者も含まれるという障壁もあります。想像するに、現状、この業界に対して業務フローや金額の面でマッチしたシステム/サービスが無いような気もします。
現実的なところでは、クリエイターに作業報告を厳格に義務付けることで、制作進行のコミュニケーションコストを下げる方法が有効な気がします。制作進行がリスクを発見しやすい環境作りがデスマーチ回避に繋がるのではないでしょうか。
納期遅れの原因には、業界の文化・クリエイターの性質によるものもあるように邪推しますが。。
b) 人数を増やせば良い?
一般的には、人数を増やせば一人あたりの負担が減るのでは、と考えられます。しかし、綿密なコミュニケーションが必要となる仕事では一定以上の人員投入は逆効果となります。関わる人が増えるとコミュニケーションコストが増大するほか、ミスも増加します。一貫した作品を作るためには、容易に人数を増やすことはできません。資金面でもクオリティの面でも、この案は現実的には難しいでしょう。
c) 制作期間を増やせば良い?
制作期間を十分に確保すれば、デスマーチは回避できそうです。しかし、月額で給与を支給される社員がいる以上、人件費の問題が発生します。十分は資金があれば可能でしょうが、現状の給与では御察しです。。また、お金の回収時期が遅くなることはマネタイズの面でマイナスです。逆に言えば、資金さえあればなんとかなるとも言えます。
d) 新しいビジネスモデル
マネタイズの方法として、最近流行りのクラウドファンディングはひとつの解だと思っています。クラウドファンディングでは、出資者=ファンとの約束で制作できるため、以下のメリットがあると考えられます。
・中間マージンを搾取されにくい
・制作面でのしがらみが少ない
・制作前に一定の回収が約束される
・一定の予算制約の中で自由に作れる
特に、お金の流れの上流にテレビ局などが存在しないため、メディアに縛られない点で、さまざまな可能性があると思います。例えば、30分という放送時間に縛られることも、間にCMを挟む義務も、1クールの間に毎週放映する必要もありません。スポンサーに急かされる筋合いもないので、制作期間もコントロール可能になります。
クラウドファンディングの他には、善意で資金を援助する「投げ銭モデル」があります。条件が整えば、ファンの多くはクリエイターにお金を援助したいと思っています。しかし、法の縛りやファンのインセンティブの面でうまい仕組みができていないのが現状です。
e) 新しい技術の導入
表現・制作のどちらも面でも、新しい技術による効率化が感がられます。
例えば、CGは、モデルを使い回すことができる、リテイクが比較的容易、データでやり取りできる、などメリットがあります。(但し、表現の幅は紙とは異なります)
表現技術で言えば、『キルラキル』におけるデフォルメや繰り返しなど、一見手抜きとも言えるカットを多様する手法は、作品を選ぶものの力の入れどころの緩急を付けられる技術として効果的だと感じました。
最後に。
ここまでまとまりなくつらつらと書いてきましたが、私は日本のアニメ業界に頑張ってもらいたいです。ゲーム業界は、制作のシステム化・効率化の面で海外に押され、日本企業のグローバルでの存在感はかつてほど無くなってしましました。アニメ業界においては、海外への技術の流出は進んでいると言われています。システム化の面で追い越されてしまうのは時間の問題ではないでしょうか。
アニメをこれからも楽しんでいきたいファンの一人として、効率的な制作環境に整備と適切な利益配分が可能なビジネスモデルの確立が達成され、アニメ業界が盛り上がっていくことを願っています。